IPO支援

企業の成長過程において上場(IPO)は一つの大きな目標といえます。IPOのためには事業の売上、利益といった会計的な側面が重要であることは言うまでもありませんが、事業継続性の観点も重要となります。事業の継続性は、事業における法令適合性や法令遵守を重要な要素としており、IPOの準備のためには法令遵守の確認は必要不可欠です。

会社法への対応

会社法上要求されている株主総会議事録、取締役会議事録等の書類の整備状況の確認はもちろん必要ですが、創立からの年数が長いほど、株主の特定を見落としがちです。現在の株主が法律的に株主としての権利を認められることだけではなく、他に株主がいないことについても確認が必要です。そのために、株主名簿や株券などの調査を行い、必要な助言を提供します。

基幹事業の規制法令の遵守チェック

会社の基幹事業について、法令による規制の有無、及び業務が法令を遵守する内容、フローとなっているかを確認し、是正が必要な場合には必要な助言を提供します。

下請代金支払遅延等防止法(下請法)

IPOを行った後になって気づかれる企業も多いのですが、資本金が増えることにより、既存の取引において、自社が親事業者、相手企業が下請事業者となり、下請法が適用される場合があります。下請法が適用される場合、下請法に定められた種々の規制を遵守する必要があります。下請法の適用の有無や、遵守のために必要な助言を提供します。

消費者契約法

消費者に対するサービスを提供している事業者において、消費者契約法への対応は必要不可欠です。サービスに関する契約、申込書をはじめ、消費者契約法やガイドラインに定められている事項を遵守しているかを確認し、是正について必要な助言を提供します。

情報管理・個人情報管理

企業の事業に関する重要な情報、お客様から預かる個人情報など、企業には様々な情報が集まり、保存され、利用されています。情報を適切に管理することなくして、事業の継続性を確保することは困難です。情報を適切に管理することで、情報漏えいや、情報の流用といったアクシデントが生じたときに、損害賠償や、不正競争防止法による対応を行うことが可能となります。また、個人情報保護法への抵触による風評被害の防止にも役立ちます。

弊事務所では企業での情報の流用案件等の経験から、不正競争防止法、個人情報保護法、秘密保持契約など法的観点から適切な情報管理体制の確認、助言を提供します。

労務コンプライアンス

近年は、IPOにおいて、労働関連法令の遵守ができているかは、大きなポイントとなります。特に、未払残業代が発見された場合、当該未払業代を未払い債務や引当金として、決算書に計上する必要があります。そのうえ、2023年4月現在においては、未払い残業代の消滅時効が3年であることから、過去3年分を計上する必要があり、過去の決算書の修正手続きが必要となることもあります。IPOの審査に入った後に、従業員によって訴訟が提起されたり、また、労働基準監督署の調査が入り、審査が延期されることもあります。そのため、未払残業代として認められる可能性があるものについては、早めに発見し、是正し、早めに清算することが肝心です。

また、時間外労働について定める三六協定についても、問題とされることがあります。IPOに関心のある企業で三六協定を締結していない企業は少ないと思いますが、三六協定で規定された時間外労働の上限時間を意識せずに労務管理がなされている企業も多くあります。三六協定で定めた時間外労働の上限時間を超えることは、労働基準法に違反する行為となりますので、明らかに法令違反をしている企業と判断され、IPOの審査も、三六協定が遵守されることが証明されるまで延期されてしまうこともあります。

このように就業規則がある、三六協定が締結されているという形式的な部分だけではなく、日頃の従業員の方の業務において、未払残業代が生じやすい部分がどこか、また、労働時間の計測が正しく行われていているかなど、労働慣例法令の観点からチェックし、改善点を見つけ出していくこと重要となります。

弊事務所では、重要なポイントとなる点をおさえながら、労務コンプライアンスについての確認、そして是正についての必要な助言を提供します。

Last Updated on 2024年4月3日 by sicoh-law-com


この記事の執筆者:至高法律事務所
事務所メッセージ
社会の課題に対し、私どもは「世のため、人のために尽くすことが、人間として最高の行為である」という理念にもとづき、これまで培ってきた法的技術やノウハウを駆使した創造的な解決策を提供することでこれを解決し、持続可能な人類・社会の進歩発展に貢献するという経営理念の実現に向けた挑戦を日々続けております。そして、「至高」という事務所名に込めた「社会正義の実現」、「社会の最大の幸福の実現」、「持続可能な人類社会の実現」に貢献するという高い志をもって努力をし続けて参ります。

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    上場に当たって弁護士を社外取締役に選任するには?顧問弁護士に依頼することは可能ですか?

    弁護士を社外取締役に選任するには?顧問弁護士に依頼することは可能ですか?

    01 コーポレートガバナンス(企業統治)と社外取締役

    コーポレートガバナンス(企業統治)のあり方について、経営陣から独立した社外取締役を複数選任することにより、取締役会の監督機能を強化すべきという見解が近時有力です。日本のプライム市場上場企業においては、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(スタンダード市場上場企業においては少なくとも2名以上)の選任が求められています。日本の会社法では、従来、委員会型の会社を除き、社外取締役の選任義務を課しておりませんでしたが、上記見解を受けて、令和元年の会社法改正で、公開大会社である監査役会設置会社で有価証券報告書提出義務を負う会社に対して、社外取締役の選任を義務づけました(会社法327条ノ2)。この社外取締役の役割(企業統治)を担うものとして、上場企業において法律専門家である弁護士を選任するケースも多いことから、本記事では、弁護士を社外取締役に選任する場合の留意事項についてお伝えします。

    02 社外取締役とは

    「株式会社の業務執行をせず、かつ、当該株式会社ならびにその親会社、子会社及び経営陣などとの間に一定の利害関係を有しない取締役」(会社法2条15号)をいいます。

    「一定の利害関係を有しない」ことの資格要件は概ね以下のとおりとなります。

    当該株式会社自身業務執行取締役等(業務を執行する取締役、執行役、使用人) +過去10年以内に業務執行取締役等であった者 +横滑り規制
    子会社
    親会社等親会社等自身、取締役、執行役、使用人
    親会社等の子会社等②を除く)業務執行取締役等
    取締役、重要な使用人、親会社等近親者(配偶者+2親等内の親族)

    (田中亘「会社法(第4版)」(2023年3月東京大学出版会)233頁から引用)

    したがって、弁護士で上記の資格要件を満たす者であれば社外取締役に選任することができます。実務上も企業法務に精通している弁護士を社外取締役に選任することは、取締役会の監督機能強化の観点からも有用であり、実際に弁護士を社外取締役に選任している上場企業は多数あります。

    03 顧問弁護士に依頼することは可能なのか(日弁連の見解)?

    顧問弁護士は、当該会社の法務面の実情に通じており、取締役会における審議事項について実情を踏まえた問題点の洗い出しや現実的な対応策の検討が期待できるというメリットがあるため、実務上、社外取締役に顧問弁護士を就任させたいというニーズがあります。

    そこで、顧問弁護士を社外取締役に選任する場合には、顧問弁護士が前述の資格要件を満たすかどうかを検討することになります。

    この問題に関して、従前、顧問弁護士が社外監査役を兼任することの可否に関し、顧問弁護士が、監査役の兼任を禁止する「使用人」に該当するか(会社法335条2項)の問題として議論されてきました。すなわち、会社から継続的に委託を受けて法律顧問業務を行う顧問弁護士が従業員と同視されるべきでないかという議論です。

    この点、従来法務省は、民事局4課の回答で、顧問弁護士も旧商法276条(現会社法335条2項に相当)の「使用人」に該当すると解しており、「会社の顧問弁護士である者をその会社の監査役に選任する場合には,監査役就任の承諾を得る際に,顧問契約を解除しておくのが相当である」としていました。

    これに対して、日弁連は、会社の顧問弁護士は独立した業務をしており、「使用人ではなく」、顧問弁護士が当該会社の監査役を兼任することは旧商法276条(現会社法335条2項)には抵触しない、ただし兼任することの妥当性については慎重に配慮せよとの立場をとっています。日弁連の見解は,顧問弁護士は独立した業務であり,会社ないし経営陣に対する従属関係にはないことを基準として考えています。なお、日弁連の見解では、以下の弁護士は、「使用人」に該当するとしています。
    ✓自社に所属して一従業員として働く弁護士(企業内弁護士)
    ✓専属して自社の法律事務のみを行い、他の依頼者からの依頼を受けない弁護士

    また、社団法人日本監査役協会監査法規委員会は,会社法が顧問弁護士の社外監査役就任を特に制限していないことを前提にして,後述の独立性基準を満たしておればその選任に問題はないとのスタンスを示しています(「独立役員に関するQ&A-独立役員届出書提出にあたっての監査役の実務対応-」平成22年2月26日)。

    以上の議論は、経営陣から独立した立場で取締役等の業務執行に対する監督を行うという社外取締役についても同様に妥当しますので、顧問弁護士を社外取締役に選任することも可能である、ということになります。
    ただし、実務上は、従前の法務省民事局4課の回答を考慮して、顧問弁護士を社外取締役に選任する場合には、当該顧問弁護士との間の顧問契約を解除しておくのが相当であるといえます。

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    至高法律事務所の企業法務分野への対応について

    04 上場会社における留意事項(独立役員該当性の問題(独立性の判断基準))

    次に、上場会社においては、社外取締役の独立性については、会社法の社外取締役の要件以外に、後述する東証の独立性基準に抵触していないかを検討する必要があります。
    東京証券取引所(以下「東証」という)では、一般株主保護の観点から、上場会社に対して、独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役をいいます。)を1名以上確保することを企業行動規範の「遵守すべき事項」として規定しています(有価証券上場規程第436条の2)。
    その上で、東証は、「上場管理等に関するガイドライン」において、東証が一般株主と利益相反の生じるおそれがあると判断する場合の判断要素(独立性基準)(「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」(2022年9月・2024年1月改訂版))を規定しており、独立性基準に抵触する場合には、その者を独立役員として届け出ることができません。

    また、コーポレートガバナンス・コードでは、「取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである」(原則4-9)としており、この原則を実施(エクスプレイン)する上場会社は、独立性基準を踏まえて、自社(グループ)の独立性判断基準を策定することになります。
    以上のとおり、東証の独立性基準は上場会社に一律に適用されるともに、上場会社が独自に策定している独立性判断基準は各社によって内容が異なることになります。

    05 顧問弁護士と独立性基準の関係

    顧問弁護士または顧問弁護士が所属する法律事務所の弁護士(以下両者を併せて「顧問弁護士等」といいます。)を独立役員とする場合には、東証の独立性基準のうち「C. 上場会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家(当該財産を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、当該団体に所属する者をいう。)」という基準への抵触の有無が問題となります。
    前記「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」では、「上記Cに該当し得る場合としては、顧問弁護士等が考えられますが、顧問弁護士等であれば必ず「多額の金銭その他の財産を得ている」者に該当するというわけではありません。」とのスタンスを示しており、顧問弁護士等が直ちに上記Cに該当するものではないとしておりますので、顧問弁護士等を独立役員に選任することも可能です。
    また、東証の独立性基準は、「多額の金銭その他の財産」に該当するか否かについては、具体的基準を明らかにせず、上場会社が判断するものとしております。

    06 「多額」の定量基準

    上場会社がこれを自社で判断するに当たっては、独立性判断基準を策定・開示している他社実例を参考にすることが推奨されます。
    「多額の金銭その他の財産」に該当するかどうかの基準を策定・開示している例としては、以下のような定量基準を示すものが一般的です(「証券代行ニュース No.156」三菱UFJ信託銀行を参照)。
    ✓1000万円以上(超)
    ✓(個人の場合)年間1,000万円以上、(団体の場合)総収入の2%以上
    ✓(個人の場合)3事業年度の平均で年間1,000万円以上、
    (団体の場合)3事業年度の平均で総収入の2%以上

    以上のような独立性基準の策定・開示例を踏まえますと顧問弁護士等を独立役員に選任する場合には、当該弁護士が所属する法律事務所への弁護士報酬の支払総額が上記の定量基準を超えていないことを確認しておくことが必要です。

    07 顧問弁護士と社外取締役についてのまとめ

    以上のとおり、会社の実情に通じた顧問弁護士や顧問弁護士が所属する法律事務所の弁護士に社外取締役や社外監査役を依頼したいというニーズがある場合、上場会社においては独立役員として独立性基準に抵触しないかどうかを検討する必要があります。そして、抵触の有無は、上述した上場会社が策定・開示している独立性判断基準の定量基準を参考に、顧問弁護士等が所属する法律事務所に支払っている弁護士報酬の額が、前述した「多額」の定量基準の範囲内かどうかで判断して行くということになります。
    そして、この定量基準に抵触するような場合には、顧問弁護士が所属する法律事務所でない他の弁護士を社外役員として選任するということになります。
    至高法律事務所では、上場に関するアドバイス等を多数行っており、また、所属する複数の弁護士が上場会社の独立役員に就任しておりますので、独立役員の選任に関するご相談についても対応しております。

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