
①労働者派遣事業者( 派遣元)の法的責任
(1)派遣社員に対する責任
派遣元は、派遣社員を雇用する「雇用主」です。そのため、派遣社員が派遣先で働いている場合であっても、法律上の責任は基本的に派遣元が負うことになります。このことを正しく理解していないと、後に大きなトラブルにつながります。
もちろん、派遣先にも安全配慮義務(会社が働く人の安全に配慮する義務)など一定の責任がありますが、賃金や解雇といった雇用契約に直結する問題は派遣元の責任が中心となります。派遣元の会社において、派遣先の責任の内容を誤解して「派遣先が悪い」と考えてしまうと、問題の対応を誤り、労働審判や訴訟に発展するおそれがあります。
(2)派遣元が負う法的責任
派遣元の法律上の責任として押さえておきたいのが、[労働者派遣法]〔労働基準法〕[労働契約法]、〔労働安全衛生法〕という4つの法律です。
[労働者派遣法]は、派遣という働き方に特有のルールを定めた法律で、労働者派遣事業者として事業を行うために、派遣元や派遣先が実施しなければならない事項が定められています。
〔労働基準法〕は、派遣元と派遣社員との雇用契約上の関係を定めており、賃金や休日、労働時間など最低限守るべき労働条件などを定めています。
〔労働契約法〕は、解雇や雇止めなど、労働契約の基本ルールを定めた法律です。
〔労働安全衛生法〕は、派遣社員の生命・身体・健康を守るために、事業者(派遣元と派遣先)に予防的な安全管理を義務づけた法律です。派遣元は、いずれの法的責任も負います。
例えば、「派遣先が仕事を出してくれないから給料は払えない」という対応は原則として認められません。雇用主は派遣元であり、賃金支払義務も派遣元が負うからです。
また、派遣先の労働時間の管理が大雑把で、派遣社員の労働時間が正確にカウントされていないような場合、例えば、「派遣先での社員の実際の労働時間」が「派遣先から報告された労働時間」よりも長時間となっているといった事態が生じます。この場合、派遣元が派遣先から報告された労働時間に従って残業代を支払っていたとしても、実際の労働時間に不足している場合には、派遣元に未払い賃金が発生することになります。
派遣元は「人材を紹介する会社」ではなく、「労働者を雇う会社」であるという意識を持つことが、すべての出発点です。
② 派遣元で起こりやすい主なトラブル
派遣元で特に多いのが、派遣先からの突然の「交代要求」や「契約解除」です。「この人は合わないので明日から来なくていい」といった連絡が入るケースは珍しくありません。しかし、派遣契約が途中終了しても、派遣元と派遣社員との雇用契約は自動的に終了するわけではありません。派遣先から交代要求があったという理由だけをもって、派遣社員を安易に解雇すると「解雇権濫用(合理的な理由のない解雇)」として解雇が無効となる可能性があります。
また、派遣先が業績悪化で休業した場合も問題です。派遣社員を休ませる場合、労働基準法上の「休業手当」(平均賃金の6割以上)の支払いが必要になることがあります。派遣先から休業を補償する金員の支払いがなくても、派遣元の派遣社員に対する休業手当の支払責任は免れません。
さらに、派遣元が派遣社員との雇用契約を有期雇用契約としている場合、契約期間満了時の「雇止め」も紛争になりやすい場面です。雇止めとは、有期契約を更新せずに終了させることをいいます。雇用契約の更新にあたって、更新の審査、面談、労働契約書の更新などの手続を行わず安易に繰り返し更新している場合、労働契約法上「実質的に無期と同じ」と判断され、雇止めが無効とされることがあります。
また、派遣元と派遣社員との雇用契約において、「派遣労働者の同一労働同一賃金」への対応についても見落とされがちです。派遣元は、派遣社員の待遇と派遣先の社員(無期雇用フルタイム労働者)の待遇との間に不合理な待遇差が生じないように、派遣先の労働者との均等(=差別的な取扱いをしないこと)、均衡(=不合理な待遇差を禁止すること)を図る必要があります。そのため、派遣元には、〔派遣先均等・均衡方式〕(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇)または、〔労使協定方式〕(一定の要件を満たす労使協定による待遇)のいずれかによって、派遣先の社員との均等・均衡を確保することが義務づけられています。
加えて、派遣社員からの苦情対応や、労働組合による団体交渉(会社に対する正式な話し合い要求)への対応も重要です。不誠実な対応は、不当労働行為として行政指導や救済命令の対象となるおそれがあります。
③ 派遣元がとるべき予防策
トラブルを防ぐためには、まず書面整備が不可欠です。派遣先との「派遣契約書」、派遣社員との「雇用契約書」、そして「就業規則」(会社のルールブック)を整合的に整備することが出発点です。労働者派遣法において、派遣契約書に定める事項が細かく定められていますので、派遣元は、派遣契約書において労働者派遣法に定める事項が定められているかを確認する必要があります。そして、例えば、派遣契約が中途終了した場合の対応方針について、派遣契約書にだけ定めるのではなく、雇用契約書や就業規則と整合するように定めておくことで、現場の判断のブレなどを防ぐことができます。
派遣社員の雇止めについては、更新の手順や基準を明文化することが重要です。雇用契約書に「勤務態度」「業務評価」など抽象的な表現を記載するだけでなく、評価方法、更新の手順、雇用契約書の更新作業といった具体的な更新手続きを社内規程で明文化することで、後日の紛争リスクを大きく減らせます。
派遣元による労働時間や休日管理の適正化も見落とせません。管理を派遣先に任せたままにせず、定期的に勤務実態を確認し、残業代未払いが発生しない体制を整える必要があります。安全配慮やハラスメント対応についても、相談窓口を明確にし、迅速に対応できる仕組みが求められます。
さらに、法改正への継続的対応が不可欠です。労働者派遣法、労働基準法、労働契約法といった法令や同一労働同一賃金のルールは改正が多く、数年前の知識のままでは危険です。定期的なチェックと見直しを行うことが、企業を守る最も確実な方法です。
予防策は「コスト」ではなく「将来の損失回避のための投資」です。小さな整備の差が、数百万円規模の紛争を防ぐことにつながります。
④ 弁護士によるサポートの活用
派遣元にとって顧問弁護士の存在は、大きなリスクヘッジになります。例えば、派遣先から突然契約解除の通知が来た場合、初動対応を誤ると派遣社員との紛争が一気に拡大します。早期に法的整理を行い、代替配置や休業手当の判断を適切に行うことで、紛争化を防ぐことが可能です。
契約書レビューも重要です。派遣先との契約条項に「一方的解除」や「責任免除」が含まれていないかを確認するだけでも、リスクは大きく変わります。また、同一労働同一賃金の説明資料作成や、団体交渉への同席など、実務に即した支援も可能です。
万が一トラブルが発生した場合でも、労働審判や訴訟への発展を見据えた戦略的対応が必要です。感情的なやり取りではなく、証拠を整理し、法的主張を組み立てることで、解決までの時間とコストを最小限に抑えることができます。
派遣事業は、法規制が複雑で、しかも改正が多い分野です。「問題が起きてから相談する」のではなく、「問題が起きない体制をつくる」ことが何より重要です。
当事務所では、派遣元企業の実情に合わせたリスク診断、契約書整備、労務トラブル対応まで一貫してサポートしております。派遣事業を安定的に成長させるために、ぜひ一度、企業法務専門の弁護士にご相談ください。早めの一歩が、将来の大きな安心につながります。
Last Updated on 2026年4月22日 by sicoh-law-com
![]() この記事の執筆者:至高法律事務所 |
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