
(0)はじめに
近年、顧客による理不尽なクレームや暴言、いわゆる「カスタマー・ハラスメント」が社会問題となっています。現場で働く従業員の方々が疲弊し、最悪のケースでは離職やメンタルヘルスの不調を招くことも少なくありません。本コラムでは、2025年4月に施行された「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」及び同条例第11条第1項及び第2項の規定に基づいて策定されたガイドラインに基づき、企業が今取り組むべき対策について、弁護士の視点から詳しく解説します。
(1) カスタマー・ハラスメント対策が急務な理由
1. カスタマー・ハラスメントの定義とは
東京都の条例では、カスタマー・ハラスメントを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」(第2条第5項)と定義しています。ポイントは、暴行や脅迫といった明らかな「違法行為」だけでなく、「正当な理由のない過度な要求や暴言」といった「不当な行為」も含まれる点にあります。
2. カスタマー・ハラスメントが企業と従業員に与える深刻な影響
カスタマー・ハラスメントは単なる「迷惑なお客さん」の問題ではありません。従業員が人格や尊厳を傷つけられることで、働く意欲が低下し、職場全体の生産性が落ちるだけでなく、貴重な人材の離職を招きます。また、現場に居合わせた他の顧客に恐怖感を与え、お店や企業のブランドイメージを著しく損なう可能性もあります。これは、企業の事業継続そのものを揺るがす重大なリスクなのです。
3. 2022年パワハラ防止法改正と事業主の責務
2022年に全面施行された「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」では、企業に対し、職場におけるハラスメント防止措置を講じることを義務付けました。また、法律には「安全配慮義務」という考え方があります。これは、事業主が、従業員が生命や身体、心の安全を確保しながら働けるように必要な配慮をする義務のことです。もし対策を怠り、従業員が健康を害した場合には、企業が損害賠償責任を問われる可能性もあります。2025年4月からは東京都の条例も施行され、カスタマー・ハラスメント防止への取り組みは、もはや「努力目標」ではなく、企業が必ず果たすべき「責務」となったのです。
(2) 何が「カスタマー・ハラスメント」にあたるのか?:正当な苦情とハラスメントの境界線
「どこからがカスタマー・ハラスメントで、どこまでが正当なクレームなのか」という判断は、現場で最も悩むポイントでしょう。その基準は、「要求内容の正当性」と「言動の相当性(手段の正しさ)」の2つの軸で判断します。
1. 顧客の要求の「正当性」の判断基準
そもそも顧客の要求に理由があるかを確認します。商品に欠陥がないのに「新品に取り替えろ」と言ったり、無関係な私物の修理を要求したりするのは、正当な理由がないと考えられます。
2. 言動の「相当性」の判断基準
たとえ顧客の要求に正当な理由があったとしても(例:商品が壊れていた)、その伝え方が社会のルールに照らして行き過ぎていればカスタマー・ハラスメントになります。大声で怒鳴りつけたり、土下座を強要したりする行為は「相当性を欠く」と判断されます。
3. カスタマー・ハラスメントの典型的な7つの類型
資料では、以下のような行為が代表的なカスタマー・ハラスメントとして挙げられています。
- 暴言・侮辱・脅迫:「馬鹿」「死ね」といった人格否定の言葉や、「殺すぞ」といった危害を加えるような発言です。
- 威圧的な言動:大声で怒鳴る、机を叩く、にらみつけるといった、相手を怖がらせる態度です。
- 土下座の要求:謝罪の手段として、屈辱的な姿勢を強いる行為です。これは強要罪に当たる可能性もあります。
- 長時間の拘束・居座り:窓口や電話で数時間も拘束したり、帰ってほしいと伝えても居座り続けたりすることです。
- 同じ内容の繰り返し・執拗な要求:解決済みの問題を何度も蒸し返したり、納得いかないと何度も電話をかけ続けたりする行為です。
- SNSやインターネット上での誹謗中傷:従業員個人や企業をネット上で根拠なく攻撃し、拡散させる行為です。
- 従業員のプライバシー侵害:無断で写真や動画を撮ってネットに晒したり、名札を見て個人情報を特定したりするストーカー的な行為です。
これらの行為は、内容次第で刑法の「暴行罪」「脅迫罪」「威力業務妨害罪」などに触れる可能性があります。
(3) カスタマー・ハラスメントを発生させないための予防対応方法:組織で守る体制づくり
カスタマー・ハラスメント被害を最小限に抑えるためには、起きてから慌てるのではなく、事前に「組織としての盾」を作っておくことが不可欠です。
1. 対応方針の明確化と社内への周知
まずは、経営トップが「私たちの会社はカスタマー・ハラスメントを許しません。従業員を徹底的に守ります」という強い決意を表明することから始まります。この基本方針を社内マニュアルに明記するだけでなく、ホームページや店頭に掲示することで、悪質な顧客に対する強い抑止力となります。
2. 従業員への教育・研修
現場の従業員が自信を持って対応できるよう、定期的な教育・研修を実施しましょう。
- 知識の習得:何がカスタマー・ハラスメントに当たるのか、どのような言葉が適切かという基礎知識を学びます。
- ロールプレイング:実際の場面を想定して、複数人で対応する練習や、毅然とお断りする練習を行います。 「自分一人で抱え込まなくていいんだ」という安心感を与えることが、メンタルヘルスを守る第一歩です。
3. 相談体制の整備
従業員が困ったときに、すぐに助けを求められる相談窓口を設置しましょう。窓口は形だけではなく、電話やメールなど複数の手段を用意し、秘密が守られることや、相談したことで不利益な扱いを受けないことを周知することが大切です。また、必要に応じて産業医やカウンセラー、弁護士といった外部の専門家と連携できる体制を整えておくことも、企業の信頼性を高めることにつながります。
(4) カスタマー・ハラスメントが起きた際の対応の流れ:初動から法的措置まで
いざカスタマー・ハラスメントが発生したとき、現場がパニックにならないよう、具体的な対応フローを定めておく必要があります。
1. 初動対応
まずは、冷静沈着に対応することが重要です。相手のペースに飲まれて感情的になると、さらなるハラスメントを誘発する恐れがあります。
- 5W1Hでの記録:いつ、どこで、誰が、何を言ったかを詳細に記録します。
- 録音・録画の活用:後の証拠とするため、録音や録画を行います。同意を得ておくことが望ましいですが、防犯上の必要性があれば同意がなくとも直ちに違法とはされません。
2. 組織としての対応
一次対応をしている従業員が「無理だ」と感じたら、すぐに上司や現場監督者に引き継ぎます。原則として、対応は複数名で行い、密室を避けるようにしましょう。
3. 悪質な要求への対応
暴言や過剰な要求が止まらない場合は、対応の中止を伝えます。「これ以上の議論はできません」「お引き取りください」と明確に伝えてください。もし居座り続ける場合は、建物の管理権に基づいて「退去命令」を出します。それでも従わない場合は、躊躇せずに警察(110番)に通報してください。
4. 「警告文」の作成方法と法的措置
悪質なリピーターに対しては、書面による「警告文」が非常に効果的です。
- 役割と効果:書面で正式に通知することで、相手に「会社は本気だ」と自覚させ、行為を止めさせることができます。
- 必須項目:いつ、どのような迷惑行為があったかという事実関係、今後は出入りを禁止すること、もし守られない場合は警察への通報や法的措置をとることなどを記載します。
- 送付方法:口頭では証拠が残らないため、内容証明郵便などの記録が残る形で送るのが一般的です。これにより「届いていない」という言い逃れを防げます。 このような書面の作成や送付を、弁護士名義で行うことで、より高い威圧効果と法的根拠を持たせることが可能です。
(5) 弁護士へ依頼するメリット:当事務所が貴社を強力にバックアップします
カスタマー・ハラスメント対策は、法的な判断と実務的な対応のバランスが非常に難しい問題です。弁護士に依頼することで、以下のような大きなメリットが得られます。
1. 法的な視点での的確な判断
顧客の言動が、犯罪(強要や脅迫など)に当たるのか、それとも民事上の損害賠償請求が可能か、プロの目で判断します。これにより、企業は自信を持って「ここからはお断りします」という一線を引くことができます。
2. 代理人としての直接交渉
悪質な顧客に対し、弁護士が貴社の代理人として直接交渉窓口となります。従業員が理不尽な怒声に晒されることがなくなり、精神的な負担を劇的に軽減できます。
3. 予防策からアフターケアまでトータルサポート
当事務所では、貴社の業種に合わせた「カスタマー・ハラスメント対応マニュアル」の作成や、従業員向けの研修講師、さらにはSNS上の誹謗中傷に対する削除依頼や投稿者の特定など、幅広くサポートいたします。
「従業員が安心して働ける環境」は、会社の成長に欠かせない財産です。
カスタマー・ハラスメントに悩む前に、あるいは現在進行中のトラブルを早期解決するために、ぜひ一度当事務所へご相談ください。法律の専門家として、貴社の大切な従業員と、企業の未来を守るために全力で取り組ませていただきます。
まずはお気軽にお電話、またはお問い合わせフォームよりご連絡ください。貴社に寄り添った最適な解決策をご提案いたします。
Last Updated on 2026年2月10日 by sicoh-law-com
![]() この記事の執筆者:至高法律事務所 |
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